2022/06/08 00:06
リールに良い巻き心地を求めてしまうのはなぜなのでしょうか
この「良い巻き心地」というフレーズは捉え所が難しく、科学的な観点から もしかすると数値化出来るのかもしれませんが、今のところその判断基準は個人の感じ方の違いによる所が大きい分野の話だと思います。
釣り歴が長くなれば必然的にそれなりの台数を使う事になるので、その経験値から良い巻き心地とはこういうものだという感覚が養われて行くのではないかと思います。
ありふれた表現ですが『ヌメヌメ』とか『軽巻き』とか『シルキー』とはこういうものだという感覚ですね。
使うリールのグレードを上げる瞬間は誰にとっても何物にも代えがたい至福の時になると思います。
しかし雑誌やネットのインプレ、メーカーの謳い文句などで期待や想像が大きくなり過ぎてしまい「こんなものか、思ってたよりそんなに良くないかも」という印象を抱く事は残念ながらある事だと思います。
カチャカチャする。
ゴロゴロした感覚がある。
巻きが重い、スムーズじゃない。
等です。
確かに同じ機種、同じ番手のリールでもこんなに違うものか?という位の差があるのは数多くの整備経験上事実です。
そもそも全く同じ巻き心地のリールは存在しないとさえ私は思っています。
ギアを含めたパーツ類、ベアリングなどそれぞれに個体差がありますから違いを生む要素は多岐にわたります。
なので私は一か八かに賭けてとにかく安く買えるネット通販での購入はあまりオススメしておりません。
やはり時間と労力は掛かりますが実店舗でこれからの相棒を探す方がその後の巻き心地云々の問題を抱えずに釣りに集中出来るのかもしれません
その後の馴染み、整備、調整での伸び代も全く変わってくる印象です。
かなり乱暴な言い方をすれば実際のところリールは整備(チューニング)しても成るようにしかなりません。
整備、調整によってそのリールが持つ元々のポテンシャルを超える事はないと考えています。
下位機種の当たり個体とフラッグシップモデルのハズレ個体を同様のチューニングを施したとしても下位機種の当たり個体の方が単純に巻き心地が良いという事は全然起こり得る事です。
そこで同機種、同番手を前提に巻き心地の差はどこから来るのか?という話をしたいと思います。
巻き心地を左右する大きな要素はなんといってもギヤ(ギア)です。
ギヤがリールの心臓、もっと言えば魂だと考えています。
ギヤが傷んでいるとゴロゴロ、ゴリゴリ、ツブツブな感触がハンドルから伝わってきてしまいます。
スゴく良い状態のリールだとギヤ感を感じず、よく言われるシルキーな巻き心地になります。
また、ベアリングの選別、選定もかなり重要な要素です。
リール=ベアリング
↑これは言い過ぎだと思いますが、ベアリングの状態が悪い物が1個でも組み込まれていれば巻きの質感はその分低下します。
逆に今まで入っていたベアリングよりノイズ、ブレの少ない個体を組み込むとその違いは歴然です。
脱脂してオイルで仕上げると良くなる場合もありますが、私はグリスインの状態でヌメヌメと良く回るベアリングを組み込む方がよりステラらしい巻きの質感をもたらすと考えています。
そして影の1位と言っても過言ではないのがパーツが収まる「ボディ自体」の問題です。
いくらギヤが完璧だと思われてもそれらが収まる土台の個体差(取り付け穴の微妙な間隔の差、精度)によりピニオンギアと中間ギアなどバックラッシュ調整不可な箇所のギヤ同士の噛み合わせ、間隔には僅かな違いが出ます。
過去に自身所有のリールを中身はそのまま移植しボディ組みだけ丸ごと交換した際に起きた劇的な巻きの質感向上は忘れられません
この経験からボディ自体の個体差が巻き心地に与える影響の大きさを痛感した次第です。
ではそういった問題を抱えるリールはボディ組みを交換すれば良くなるのか?というとそうとは言い切れません。
やはり個体差の影響から良くなる場合もあるでしょうし、逆に悪くなってしまう物もあると思います。
ステラのボディ組みは非常に高価なので上記のギャンブル要素を考えると正直オススメは出来ません。
なので巻き心地に拘るなら実機確認は必須の条件であると言えると思います。
しかし2022年に凄まじい変化を遂げて発売された【22ステラ】に関しては複数台の中から自分好みの一台を選ぶという買い方が今のところ非常に困難である場合は購入後のチューンに希望を見い出すしかありません。
22ステラに関しては複数お問い合わせをいただいていますが、そのほとんどがハンドル根元のガタ感に関するものです。
メーカーに問い合わせて調査してもらっても基準値内という事で返される事がほとんどの様です。
メーカーは嘘は言わないと思います。
基準値内のガタなので異常では無いというのが真実だと思います。
しかしそれでは納得出来ないアングラーのために私を含め数多くの整備業者が存在する意義が有るんだろうと思います。
『成るようにしかならない』と言ってしまうと雑な印象を与えてしまうかもしれませんが、リールを組む事に関しては一つ一つの積み重ねが違いを生む事もまた事実です。
0.01㎜の違いがノイズ緩和や操作感向上に繋がる事が身に染みているのでそこは妥協出来ません。
私も22ステラは3台購入しましたが、1000SSPGがイマイチの質感で釣行毎にバラしては調整を繰り返し、何とか納得行くレベルの巻き感まで持って来れました。
そんな手の掛かるリールがなんだかんだ可愛く思えて来るのは少し病んだ思考なのでしょうが、これからもこういった手の掛かるリールの整備経験を積み重ねて、お客様のリール整備に還元出来ればと考えているところです。
ZM-TUNE:大久保